ジョンソンRの徒然日記

よつばと!に癒しを求めるクソオタク供へ

地震①

 2024年1月1日、能登半島を中心とした大地震が日本を襲った。今回深刻な被害を被った志賀町輪島市珠洲市穴水町七尾市は2007年にもマグニチュード6.9、いわゆる能登半島沖地震が発生しており、このエリアをなぞるように活断層が広がっているという。原因について、流体の存在が騒がれ、はたまた人工地震陰謀論が囁かれ、究明にされないまま被害は今もなお深刻化を止められずにいる。同時期には不幸な事故として羽田空港の衝突事故が生じ、挙句の果てには無用な争いまでもが徒に相次ぐ混乱へ落としめられた。

 

 個人の話をするならば、地震が生じた同日16時前後には、他県から訪れた友人と共にスーパー銭湯に赴き、しがない近況報告や思い出話に明け暮れ、湯船からサウナ、岩盤浴とふけり、畳のフードコートで昼食を終えた最中だった。考えられる最大限の御気楽でリラックスした雰囲気からも、液晶の端に映る北部エリアの地震予告にも、遠くの出来事とまさに油断していた心境に反し、徐々に激しさを増す振動に度肝を冷やした。そんな状況だった。

 一番興味深かったのが、自分が経験したことのないような大地の揺れを前にしても、生存への選択にきちんとしがみつけない、そんな人間の態度だった。それは僕自身も例外ではない。周囲を見渡してもローテーブルしかなかったという言い訳はあれど、棒立ちでその場を動くことができなかった。静まりかえってようやく、何が起こったんだとテレビの前に駆けつけて、段々と事態の把握に処理が追いついたくらいだ。アナウンサーは画面越しに津波の危険が示唆し、逃げるための行動を促そうと懸命に呼び掛けていた。緊張から生じる身体の動悸なのか、実際の大地の揺れなのか、自分だけではどうにも分からないような緊迫感に襲われるなかで、どうしようもなく冷静にいられないまま、浴室では徐に浴場へ赴く方から、喫煙を始める方まで、その落ち着きのなさはあまりに現実味を欠いていて、皮肉なことにその事態がより深刻さを露わにしていたように思う。移動のための手段がない友人はこのまま行動を共に、そんな予定のなかった我が家に迎え入れられ、まったく喉を通らないお節料理を前に、上手く立ち振るえないでいる羽目になった(これはこれでいい話なんだけれども)。

 

 カレンダーの妙による僥倖ともとれた長期休暇を、そのまま無作為にスマッシュ速度で崩壊させてくれては仕事は始まり、敷地内の安全確認や復旧作業に勤しむ予定外の幕開けとなった。親族が亡くなった、家屋が崩壊した、孤立状態に陥った、避難所生活の物産の相談、救援対応に夜も帰れない、そんな話題が飛び交った。「本当に危ない時って、人間冷静にいられるもんじゃないですよね、実はその時温泉入ってて…」「いや実は県外から来てる友人を匿ってたんですよ、それでね…」という具合に笑い話で消化しよう、なんなら少し盛るならどこだろうかと思案していたけれども、冗談でオチをつけられないような沈み込むような暗澹が漂っており、そんなことを考えていた自分が恥ずかしくなった。そんな被害を受けている同僚を前にして、まったくおかしく、頓珍漢だけれども、大した被害を受けずに済んだ自分が情けなくなった。いみじくもオフラインおばさんと内心揶揄していた担当者から、様々な負の感情が色んな形で醸造されてしまうことが本当の意味での災害で不幸なのだと囁かれた。悪意がこれ以上蔓延しないよう努めるのが、ここにいる私たちの役割なのだと。

 

 東北、熊本など他の地震とは異なる様相を示し更なる警戒は必要だと専門家は喧伝する。1時間おきに地震速報を更新しては地震と自身の錯覚の差異を埋め合わせる。ネットの魑魅魍魎に煮え切らない感情をぶつけあわせる。現実では何事もなかったよう笑みを浮かべる。請求書や締切など事務処理の現実的な対応に頭を悩ます。いつも以上に家族とコンタクトを取る。無神経なラインには震災地マウントを取っては被害者ぶる。どれだけでも麻痺していて、それでもなお懸命に。そんな非日常が自分の置かれている環境なのだと、それを改めて実感しつつ、今なお地震速報の画面を更新している。